台湾でビジネスを始めるときの3つの壁——最初に理解すべきはどれか

台湾ビジネスのヒント

台湾でビジネスを始めるとき、多くの人がまず気にするのが「言葉の壁」です。中国語ができないと難しいのではないか——そう感じる方は少なくありません。

ただ実務で立ち会っていると、意外にも言葉は「一番最初に越えやすい壁」だったりします。逆に、目に見えにくいところに、本当に効いてくる壁があります。

台湾でビジネスを始めるときの壁は、大きく3つに整理できます。今回はそれぞれの実態と、経営者が本当に理解しておくべきものを整理します。

壁①:言語の壁——スタートは切れる、コントロール維持は別問題

結論から言うと、英語だけで、あるいは中国語ゼロからでも、台湾でのビジネスをスタートさせること自体は可能です。過去には英語のみでビジネスを展開している例もありました。現在ではAIによる文書作成や、イヤホン型の同時通訳ツールもあり、相手の承諾があればメールや実務のやり取りは十分に成立します。

なお、「言葉ができても文化理解がなければ通じない」という論点は、以前の記事「言葉の壁の本当の正体は『文化』にある」で詳しく書きました。今回はそこと別の切り口——「スタートを切る」段階と「経営コントロールを維持する」段階の差——に焦点を当てます。

スタートを切る段階では、言葉は補える
翻訳ツール、業界通のパートナー、同時通訳ツール——手段は色々あります。この段階で「中国語ができないから台湾ビジネスは始められない」ということはまずありません。

コントロールを維持する段階では、補いきれない
ただし気をつけたいのは、以下の3点です。

1つ目:現地独自の専門用語の落とし穴
「発票(ファーピャオ)」のような現地独自の用語は、翻訳ツールでは正確に訳されないリスクがあります。制度や税務に関わる用語は、間違って解釈すると実務に響きます。

2つ目:パートナー任せで失うコントロール
業界知識を持つパートナーがいれば、言葉の壁は補えます。ただし信頼できる相手でないと、判断そのものを丸投げすることになり、コントロールを失う恐れがあります。

3つ目:最終判断は自前の言語理解に依存する
最終的なコントロールを自社で維持したいなら、最低限、自分で理解できる体制を作るか、中国語ができる人材を確保するのが望ましいです。

つまり、「始める」だけなら言葉の壁は超えられます。ただし「経営判断を自社に残す」なら、いずれ言葉の理解を自前に持つ必要が出てきます

壁②:文化の壁——「サンプル品質」と「時間感覚」に象徴されるズレ

言葉より深いところにあるのが、文化の壁です。日台のスピード感の違いについては別記事でも触れましたので、ここでは実務でズレを生む具体的な2つの場面を掘り下げます。

サンプル作成での品質観のズレ
例えば新商品のサンプル作成の場面。台湾側は効率を重視するため、スピードを優先して品質を多少落とすことがあります。一方、日本側は最初から高い完成度を求めるため、ここに乖離が生じます。

「まずざっと形にする、後で調整」の台湾と、「最初から完成度」の日本、というスタンスの違い。この違いを知らずに日本側が「これでは全然ダメだ」と怒ってしまうと、台湾側は「なぜそんなに完成度にこだわるのか、まず動かせばいいじゃないか」と当惑します。どちらも仕事に誠実で真剣なのに、価値観がずれているだけ、というのが実態です。

時間感覚のズレと「誠実さ」の解釈
時間の厳守や締め切りへの向き合い方も、日本の感覚と違います。日本の目線では「時間を守らない=不誠実、不真面目」と映る行動も、台湾側では「効率と優先順位の付け方」の結果だったりします。

ここを「相手が悪意でそうしている」「相手はいい加減だ」と受け止めてしまうと、関係そのものが崩れます。表面の行動ではなく、その裏にある価値観を見る——この視点がないと、文化の壁は越えられません。

なぜ経営者が理解すべきか
文化の壁は、取引に至るまでのコミュニケーションの根幹に関わります。言葉ができても、文化理解がなければ信頼関係の構築自体が難しくなります。しかも、この理解は人に任せられません。実務者に翻訳を任せることはできても、価値観のすり合わせは経営者本人がやる必要があります。

壁③:制度の壁——「見落としやすい2つ」を押さえる

制度は、実際に取引や事業を始めてから直面する壁です。雇用、税務、法人設立、契約、商標など、日本と異なるルールがあります。雇用面での違い(「働いた分に見合う仕事」という考え方、離職率の高さ)は別記事「台湾ビジネスは『人が辞める前提』で動いている」で詳しく書いたので、ここでは触れる程度にとどめます。

今回は、実務で見落としやすいのに致命的になりうる2つの制度リスクに絞ります。

法人設立の難化
以前は比較的簡単に設立できた台湾法人ですが、年々審査が厳しくなっています。過去のノウハウで動こうとして、想定より時間もコストもかかった、というケースを見ることが増えました。「以前できたから今もできる」という前提は捨てて、最新の要件を確認するのが安全です。

商標の「悪意ある第三者」トラブル
海外展開でよくあるのが、こちらより先に第三者が商標を取ってしまうケースです。悪意ある登録者が意図的に取ってしまうと、後から取り戻すのに時間もコストもかかります。事前の商標登録は、事業を始める前段階でやっておくべき「攻めではなく守り」の作業です。

それ以外の制度は、専門家に頼れば越えられる
税務・会計、契約書の細部、労保の手続きなど、細かい制度差は膨大にありますが、共通しているのは「専門家に頼めば実務でカバーできる」という点です。会計士、弁護士、行政書士など、信頼できる伴走者を先に確保しておくのが、制度の壁を越える基本ルートです。

「目立つ順」と「実務で効く順」は違う

3つの壁を並べると、目立つ順と実務で効く順が違うことに気づきます。

  • 目立つ順:言葉 > 文化 > 制度
  • 実務で効く順:文化 > 制度 > 言葉

言葉の壁は一番目立ちますが、ツールとパートナーで最低限のカバーが可能です。制度の壁は見えにくいですが、専門家に頼れば越えられます。

一番厄介なのが、文化の壁です。ここを理解していないと、信頼関係の構築自体が難しくなります。取引の入り口から、契約後の関係維持まで、文化理解はずっと効き続けます。

経営者層がまず理解しておくべきは、文化の壁——これが私の感覚です。言葉は人に任せられる、制度も人に任せられる。でも「相手と分かり合う」ところは、経営者自身が持つ必要があります。

壁を越える共通点——「壁の内側にいる人」を引き込む

3つの壁の越え方に、共通する構造があります。

自分たちだけで解決できることなら、それは大した問題ではありません。本当に難しいのは、自分たちだけでは超えられない壁が出てきたときです。

そんなとき重要になるのは、その壁の内側にいる人たちをどう引き込むか——です。単なる「人脈作り」や「知り合いを増やす」という話ではなく、壁の向こう側にいる人と、こちら側で一緒に動いてくれる関係を作るというのが、壁越えの本質だと感じます。

  • 言葉の壁 → 中国語ができるだけでなく、業界知識と自分の判断軸を共有できる人
  • 文化の壁 → 台湾と日本、両方の価値観を体感的に理解して、間で通訳できる人
  • 制度の壁 → 単に手続きを代行するだけでなく、自社の状況を踏まえて判断を伴走できる専門家

いずれも共通するのは、「情報を橋渡ししてくれる人」ではなく、「一緒に判断してくれる人」を確保するということです。

海外でビジネスを始めるうえで一番効くのは、制度知識でも語学力でもなく、「壁の向こう側にいる人を、こちら側の判断に引き込めるか」。これが実務で感じるところです。

まとめ

台湾でビジネスを始めるときの壁は、大きく3つ。

  • 言葉の壁:スタートは切れるが、経営判断を自社に残すなら自前の理解が必要
  • 文化の壁:サンプル品質・時間感覚に象徴されるズレ。経営者自身が理解すべき
  • 制度の壁:法人設立の難化、商標の第三者トラブルが見落としがち。それ以外は専門家に伴走してもらえる

目立つ順(言葉>文化>制度)と実務で効く順(文化>制度>言葉)は違います。経営者がまず理解しておくべきは「文化の壁」です。

そして、いずれの壁も「その内側にいる人を、こちら側の判断に引き込めるか」に還元されます。壁を越えるという発想より、壁の向こう側にいる人を引き込むという発想の方が、実務では効きます。

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