台湾に進出するとき、必ず一度は迷うのが「日本流を貫くべきか、それとも現地化すべきか」という判断です。
全部を日本流のままで押し通しても失敗しますし、全部を現地化しすぎても失敗します。実務で見えてきたのは、「日本流」と「現地化」は領域ごとに分けて判断する必要がある、ということです。
今回は、実例を交えながら、その判断軸を整理します。
日本流を武器にできる部分——品質・保証・アフターサービス
まず、日本流をそのまま持ち込んで武器になる部分から見ていきます。
台湾人の多くが強く意識しているのは、品質の高さです。最近でこそ差が縮まりつつありますが、依然として「中国製は質が悪いから手を出したくない」「日本製やヨーロッパの有名メーカーなら品質が高いだろう」という期待があります。高くても手を出すという傾向が続いています。
同じ流れで、保証やアフターサービスの充実も、日本流の武器として効きます。「日本製ならしっかりサポートしてくれるはず」という信頼が、購入判断の後押しになります。
この2つは、日本流を薄めずに、むしろ強調するべき部分です。台湾市場にとっての差別化要因になっている領域なので、ここを現地化する必要はありません。
現地化しないと売れない部分——値引き文化
一方で、日本流を貫くと失敗する領域もあります。代表的なのが価格の見せ方と値引きです。
以前、こういう例がありました。日本で「基本的に値引きをしない」というスタイルを貫いてきた企業が、台湾でもそのポリシーを維持しようとしました。
しかし、台湾はどちらかというと値引きがあることで売れる文化があります。B2Cで販売する場合、プラットフォーム上でも値引きプランやキャンペーンがないとなかなか売れていきません。B2Bであっても、取引先から割引キャンペーンの提案を求められることが多く、それに応えられないと売れ行きが伸び悩みます。
売り手側も「キャンペーンを打てない商品は動かしにくい」ため、モチベーションが下がってしまい、悪循環に入ります。
日本の「定価が絶対」という感覚は、台湾市場では逆に不利になります。値引き設計は、現地の商慣行に合わせて組み直すのが実務的です。
判断が分かれる部分——商品そのものとパッケージ
日本流と現地化の間で、商品そのものとパッケージは、ケースバイケースになる領域です。
商品そのものは、日本らしさが売りになっている商品ならそのままで問題ありません。日本製・日本式であることに価値があるカテゴリなら、変える必要はないです。逆に、日本らしさが売りではない商品なら、多少現地に寄せる必要があります。「日本製だから売れる」ではなく、「日本製で、かつ現地のニーズに合っているから売れる」というのが基本線です。
パッケージについては、基本は日本流のままで大丈夫です。ただし、贈答品用(ギフト用)として売る場合は、台湾現地が好むギフト感のあるパッケージやギフトボックスにローカライズする必要があります。
台湾は贈答品文化が強く、贈る場面での見た目が購入判断を大きく左右します。ここで押さえておきたいのは、贈られる側が喜ぶかどうかだけでなく、贈る側が「格好がつくか」も重要だという点です。台湾ではメンツを気にする感覚が根強く、「これを贈って恥ずかしくない」と思えるパッケージであることが、選ばれる理由になります。
「現地化しすぎ」の落とし穴——軸がブレるとブランドが崩れる
反対に、現地化しすぎて失敗するパターンもあります。
こういう例がありました。日本では高級層向けに販売していたブランドが、台湾に進出したものの、台湾市場には高級ブランドとして売るための売り先が想定より少なかったという状況に直面しました。結果として、泣く泣く大衆ブランド向けに販路を広げざるを得ず、本来の「高級層を狙う」という軸がブレてしまい、ブランド価値を損ねてしまいました。
このケースが示唆しているのは、現地化しすぎの問題である以前に、市場調査の段階で判断すべきだった、ということです。台湾に高級層向けの売り先が十分にないと分かった時点で、進出をやめるか、ポジショニングを変える判断ができれば、ブランド価値を守れたはずです。
現地化は「郷に入っては郷に従え」ではなく、「自社の軸を保ったまま、実務を合わせる」が正解です。軸自体を現地に合わせて変えなければ成り立たないなら、それは進出そのものを見直すサインとも言えます。
判断のフレーム——領域ごとに分けて考える
ここまでの実例を踏まえて、私が実務で使っている判断軸を整理します。「全部日本流」も「全部現地化」もありません。領域ごとに分けます。
1. B2Cビジネス(現地ユーザーが相手)
相手にするのは台湾現地のユーザーなので、売り方や見せ方は現地に寄せるのが基本です。
- 商品そのもの:ケースバイケース。日本式が武器なら変えない、そうでないなら現地に寄せる
- パッケージ:基本は日本流。ただし贈答品用は台湾現地が好むスタイルに
- 価格・キャンペーン設計:現地の値引き文化に合わせて設計を組む
2. 会社経営(現地法人の運営)
従業員が現地の人である以上、会社経営は現地のルールに則る必要があります。労働観、雇用契約、評価制度、コミュニケーション——ここに日本流を強く持ち込むと、現場が回りません。特に現地に法人を設立して展開するのであれば、完全に台湾のルールに従うべきです。
3. B2B取引(海外取引として)
日本の本社から台湾側と取引する場合、基本的には日本流のままで問題ありません。品質基準、契約書、書類のやり取り、これらは日本流を保っても差し障りが少ないです。ただし、納品や支払いのルールなど、実務的な部分はある程度現地に寄せる必要があります。
4. 商談・営業活動
商談の進め方や営業活動には、台湾独自のやり方があるので現地に合わせる必要があります。関係構築のペース、決裁プロセスの持ち方、フォローの頻度と方法——ここを日本流で押し通すと、話が進みません。
まとめ——「領域ごとの判断」がフレームの正体
台湾進出で「日本流か、現地化か」を単一の答えで決めようとすると、失敗します。
- 日本流を武器にできる部分(品質・保証・アフターサービス)→ 強化する
- 現地化しないと売れない部分(値引き文化・商談スタイル・会社経営)→ 現地に合わせる
- 判断が分かれる部分(商品・パッケージ)→ 商品と売り方で個別判断
- 落とし穴(ブランド軸を現地化しない)→ 軸は保ったまま、実務を合わせる。軸を変えないと成り立たないなら、市場調査の段階で進出判断を見直す
この視点で見ると、B2C・会社経営・B2B取引・商談、それぞれで判断が違ってくる、ということが分かります。「日本流を貫くか、現地化するか」の答えは、領域ごとに違う——これが実務で感じるところです。
まずは自社の事業を、この4つの領域に切り分けてみることから始めるのがおすすめです。それぞれの領域ごとに、日本流を残すか、現地化するかを判断していけば、「全部日本流」でも「全部現地化」でもない、実務に合った着地が見えてきます。
