台湾で長期滞在する日本人経営者・駐在員が、たまに耳にするのが「国外転出者向けマイナンバーカード」の存在です。「海外にいてもマイナンバーカードが取れるようになった」というアップデートで、私も期待して申請してみました。
結論から言うと、多くの場合は、正直あまり取る意味がないというのが実感です。実際に取得してみて分かった申請の流れ、通常との違い、そして「取る意味があるケース/ないケース」を整理してみます。
申請の流れ——所要は約1.5ヶ月、費用は無料
申請は完全オンラインで、日本の総務省が運営する専用サイトから行います。
- 申請URL:https://www.kokugai.kojinbango-card.go.jp/kokugai-mnshinsei-u/
- 費用:無料
- 受取:日台交流協会(在外公館経由)
私の場合のタイムラインはこうでした。
- 5/29:オンライン申請
- 6/1:「申請書ID」がメールで届く(何に使うかはよく分からない)
- 7/6:日台交流協会から「マイナンバーカード交付等の準備ができました」とメール
- 7/13:日台交流協会に受取に行く(パスポート持参のみでOK)
申請から受取まで約1.5ヶ月。日本国内の申請(4〜6週間)と大差ない感覚です。窓口対応もスムーズで、書類的なストレスはほぼありませんでした。
通常のマイナンバーカードとの違いは”住所欄の記載”、それだけ
受け取った国外転出者向けマイナンバーカード、通常のマイナンバーカードとの違いは「住所欄の記載内容」だけでした。
- 顔写真:あり(通常と同じ)
- 有効期限:あり(通常と同じ)
- マイナンバー:もちろんあり
- 住所欄:「国外転出」+実際の転出日が記載される(日本国内の住所ではない)
この”日本国内の住所が入っていない”状態が、後述のように実務での使い勝手を大きく制約します。
実際、何に使えるのか?——駐在員視点での解体
期待していたのは、日本の各種手続き(銀行、税務、証券など)でマイナンバーが必要な時に「これで対応できる」というイメージでした。しかし現実は違いました。
日本の金融機関の実務では、多くの場合「日本国内に居住していること」が前提条件になっています。国外転出者向けマイナンバーカードは住所欄が日本国内の住所ではないため:
- 銀行口座でマイナンバー提出を求められた時:海外送金などで銀行からマイナンバー提出を求められることがありますが、提出しても住所欄が日本国内の住所ではないので、不完全な扱いになります
- 証券口座・投資関連の更新や新規申請:基本的にNG。日本に居住していることが条件になるケースが多く、海外転出者は原則利用できません
海外転出後、日本の金融機関の各種規約は機関ごとに違います。海外転出届を出した後の口座取扱いも規約によって対応が分かれるので、金融機関ごとに事前確認をするのが安全です。
なお、通常のマイナンバーカードは海外転出で失効します(市区町村役場で継続使用手続きが必要)。国外転出者向けカードはその代替として位置付けられていますが、住所欄が日本国内の住所ではないため実務で使えるシーンが限定的、というのが構造です。
じゃあ”取っておく意味”はあるのか?
デジタル庁の公式説明では、以下のようなメリットが挙げられています。
公式が示すメリット
- 海外からのe-Tax利用:海外にいながら日本の所得税の確定申告(e-Tax)が電子署名付きで行える
- マイナポータルの活用:国外からマイナポータルにログインし、行政情報の確認や一部の手続きが可能
- 一時帰国時の利便性:日本に一時帰国した際、転入・転居の手続きや各種証明書の取得などがスムーズになる
- 身分証明書としての利用:日本国内での顔写真付き身分証明書として使える
これらに該当するライフスタイルの方(たとえば日本国内で不動産所得があってe-Taxで確定申告が必要、日本と海外を頻繁に往復する等)は、取っておく価値があります。
公式が示す「意味がない・不要なケース」
一方、公式説明でも以下のケースは不要と明記されています:
- 海外から日本の行政手続き(確定申告や年金など)をする予定がまったくない場合
- 一時帰国の予定が当分なく、日本での銀行口座や資産管理等でデジタル認証を必要としない場合
私の実感としても、台湾駐在の多くの日本人はこの2つに該当すると思います。特に:
- 日本の所得税を非居住者として日本で確定申告する予定がない(台湾で申告している)
- 日本の各種手続きを代理人(税理士・司法書士等)に任せている
- パスポートで日本国内の本人確認は十分に済んでいる
このパターンでは、正直、取る意味は薄い。カード自体が使える場面が限定的で、費用は無料ですが手間の割にリターンが少ない。
取る意味があるかもしれないケース
- 海外からe-Taxで確定申告を頻繁に行う(不動産所得等で日本の確定申告が必要な人)
- マイナポータルを国外から活用したい(行政情報の確認、各種手続き)
- 将来の帰国を予定していて、一時帰国時の各種手続きをスムーズにしたい
- すでに国外にいて、元々マイナンバーを一度も持ったことがない人
- 何らかの実務で「マイナンバーの番号自体を提示しなければいけない」状況に直面している人
これらのケースでは「取っておく意味あり」レベル。
住所の扱い:転出届を出すかどうかで判断が変わる
駐在員が「そもそも国外転出者向けマイナンバーが必要か」を判断する時、まず考えるべきは日本の住所をどう扱うかです。
- 日本で給料を受け取っている、または日本に家族がいて単身赴任的なケース
- 住所を日本に残す方が良いことが多い(住民税・扶養控除・各種手続きで不利益回避)
-
この場合、通常のマイナンバーカードを持ち続ける方が実務的
-
台湾で全額給料を受け取る、または台湾で税務申告するケース
- 転出届を出して日本の住民税を払わないルートを選ぶ
- この場合、国外転出者向けマイナンバーカードへの切替が該当してくる
- ただし、この選択には見落としがちなデメリットがあります:
- 国民年金は任意加入になる(強制ではないので払わない選択もできるが、将来の受給額に影響)
- 健康保険(国民健康保険)は解約される → 日本で病院受診する時は保険適用外で全額自己負担
- 私も日本一時帰国時にレントゲンを数枚撮っただけで約5万円かかりました。日本での医療を軽く見ていると、想定外の出費になります
- 対策として、台湾で健保に加入すれば、日本で受診する際も使えるという話も聞きます(すべての病院で対応するかは要確認)
「日本の住所をどう扱うか」を先に決めてから、マイナンバーカードの形式を選ぶ——この順序で考えるのが自然です。
台湾国内での身分証としての価値はほぼゼロ
もう一つ、実感として大きいのが「マイナンバー(国外転出用含む)は、台湾国内での身分証としては価値がほぼゼロ」ということです。
台湾国内での実務の使い分けを整理すると:
| 場面 | 必要なもの |
|---|---|
| プリペイドSIM契約 | パスポート |
| 身分証明の提示(一般的な場面) | パスポート |
| 賃貸契約 | 基本パスポート(外国人大家はマイナンバーの存在すら知らない人が多い) |
| 月額契約SIM | 居留證 |
| 水道・電気の契約 | 居留證 |
| 銀行口座開設・金融機関系 | 居留證(一部の銀行でマイナンバー提示を求められたこともあるが稀) |
つまり、台湾で暮らす上で頼りになるのはパスポートと居留證の2枚。マイナンバーカードが役に立つ場面は、実務上ほぼ出てきません。日本で何かする際もパスポートか免許証があればOKなので、わざわざ国外転出者向けマイナンバーカードを取る意味は薄い、というのが実感です。
例外:2拠点生活・保険証統一の流れがあるケース
ただし今後、日本の保険証がマイナンバーカードに統一される流れがあります。日本と台湾で2拠点生活を送る、あるいは日本にも軸を置く生活を続ける方は、持っておく意味が出てくるかもしれません。
国外転出者向けカードで保険証機能がどこまで使えるかは、まだ実運用が固まっていない部分もあり不透明ですが、選択肢としては視野に入れておく価値があります。
まとめ
国外転出者向けマイナンバーカード、実際に取ってみての正直な結論は:
- 申請は簡単・無料・約1.5ヶ月
- 通常マイナンバーとの違いは”住所欄の記載内容”だけ(日本国内の住所ではなく「国外転出+転出日」が入る)
- 住所欄が日本国内の住所ではないため、日本国内の実務手続きでは使えるシーンが限定的
- 台湾国内での身分証としての価値はほぼゼロ(パスポート+居留證で完結する)
- 公式が示すメリットは e-Tax・マイナポータル・一時帰国・身分証の4つ。これらを頻繁に使う人には意味あり
- 一方、台湾駐在の多くの日本人には”取らなくても実務は回る”というのが実感
- 判断の順序:まず日本の住所を残すか転出届を出すかを決めて、その後にマイナンバーカードの形式を選ぶ
「海外にいてもマイナンバーカードが取れる」というアップデートは、選択肢が増えた点では意味がありますが、期待していたほど劇的な便利さはない——これが実際に取ってみて分かったことでした。
将来的にマイナンバーカードの使い所が広がれば(特に保険証統一)話は変わるかもしれませんが、現時点では用途がはっきりしていれば取る、なければ無理に取らなくても実務は回るというのが妥当な位置付けだと思います。
(この記事は、駐在員向け生活実務シリーズの第2弾です。第1弾の台湾の永久居留証取得の全記録も併せてどうぞ。生活面の実務サポートに関するご相談も受け付けています)

