「自社商品のパーツを台湾か中国の工場で安く作ってもらいたい」——日本の小企業からたまに受けるこの相談、多くは”詰み”ます。
原因は個別の交渉術ではなく、小企業がOEM発注で必ず衝突する3つの構造的な罠にあります。今日は、その罠の中身と、それでも小企業が動ける戦い方を整理してみます。
三重の罠——ロット/単価/品質基準
罠①:ロットの壁
一般的に、台湾・中国の工場で受注できるロット数は次のような感覚です。
- 標準:1,000個/ロット
- 頑張って:500個(工場と関係性があれば)
- 300個以下は事実上不可能(よほどの関係性がなければ)
工場からすれば、機械を稼働させて人を動かすなら、1回で多く作った方が効率がいい。少ない数は原材料の段取り・機械のセットアップコストが1個あたりに乗るので、明確に不利です。300個で作ってほしい、と依頼したところで、関係性のない工場からは即断られて終わり、というケースをよく見ます。
罠②:単価の壁
小企業からの相談で多いのが、「単価を下げてほしい」という交渉。特に厄介なのが、その理由が 「為替相場の変動で日本円が安くなったから」 というパターンです。
工場からすれば、これは全く関係のない話です。工場側が単価を上げたわけでもないのに、発注者の都合(為替)を理由に値下げを迫られる——これは工場のやる気を消す最悪の交渉理由です。
単価交渉は”合理的理由”に限定するのが原則です。例えば「発注量を増やす代わりに単価を下げる」なら理屈が通ります。「為替が動いたから下げてくれ」は、通らないだけでなく、その後の関係も冷える。
罠③:品質基準の壁
もう一つ、実務で頻発するのが品質基準の後出しです。
- A品(そのまま販売できる完璧な品質)
- B品(小さな欠点はあるが実用は可能——販売できる)
- C品(製品として使えないレベル——赤伝で相殺)
多くの会社はB品も普通に扱って販売しています。例えばガラス製品なら、擦っても取れない軽い汚れや、内部の小さな気泡は B品扱い。一方、明らかに欠けている・ヒビが入っている等は C品として弾く——これが業界一般の感覚です。
問題は、発注者側が「A品しか受け取らない」と後出しでゴネるケース。B品まで弾かれると、工場は原材料・工賃・時間をかけた分のリターンが減るので、当然嫌がります。関係悪化の一発になります。
なぜ大手はこの三重をクリアできるのか
同じ工場に発注しても、大手企業は交渉が通ります。理由は3つ、全て構造的です。
- 大量発注(1,000個どころか3,000〜5,000個) → ロット問題を初めからクリア
- 交渉力(大口顧客としての立場) → 単価も条件も詰められる
- B品を売る販路を持っている → 品質基準を柔軟に設定できる
小企業がこの3つを持たない状態で、大手と同じ条件を要求するから詰む。「単価は下げたい、でもロットは少なくしたい、しかも品質は妥協しない」——これは工場からすると全く旨味のない話です。
それでも小企業が動ける5つの戦い方
戦い方①:関係性を先に育てる
一発目から大きな発注はできない前提を置く。まず小さく始めて、複数回の取引で信頼を積み上げる。10年関係があれば、多少の融通は利いてきます。ただし、関係性があっても原材料高騰や工賃上昇による値上げは避けられない——ここは受け入れる姿勢が要ります。
戦い方②:品質基準を先に文書化する
A品/B品/C品の判定基準・許容範囲・割合の目安を、発注前に書面で合意する。これがないと後出しトラブルが起きます。特に:
- A品とB品の割合の目安(例:A品80%、B品20%まで許容)
- B品の具体的な許容範囲(汚れの大きさ、気泡の数、色ムラの程度)
- C品の判定方法と相殺のルール
事前明文化があるだけで、工場側は安心して受注でき、関係が長続きします。
戦い方③:B品を売る販路を先に作る
工場との交渉で意外と効くのが、「B品も引き取れる販路がある」という立ち位置です。B品率が上がっても引き取れる、と示せれば、工場側の生産リスクが下がり、単価交渉の余地が生まれます。逆に「B品は全部弾く」姿勢だと、工場は歩留まりリスクを丸ごと被ることになり、条件が厳しくなります。
戦い方④:単価交渉は”合理的理由”に限定する
前述のとおり、為替を理由の値下げは最悪手。単価を下げたければ、工場側にメリットのある提案とセットで:
- 発注量を増やす(例:今回だけでなく次回分も同時発注)
- 支払い条件を良くする(前払い・短期回収)
- 継続契約を約束する
- 仕様の一部を工場の得意な形に寄せる(段取りコストが下がる)
工場側に「じゃあ下げてもいい」と思わせる材料が要ります。
戦い方⑤:中間業者(商社)を経由する
意外と有効なのが、商社を挟む選択肢です。
以前あったケース:国内の商社経由で工場発注していた案件で、単価が上がったから「直取引で安くしたい」と相談を受けました。実際に直で交渉すると、単価は多少下げられたが、ロットが500→1,000に上がった。
商社は複数の取引先の発注をまとめるため、自社の発注量が少なくても他社と合算されて相応の数になる。商社の交渉力で工場のロット条件が緩和されるケースがあります。「直取引の方が安いはず」という思い込みを外す価値があります。
共同発注も理屈上はありえます。特に過去に廃盤になった商品の復刻なら、他社も欲しがるケースがあります。1社では多すぎる数量を、2〜3社で分担すれば1社あたりのリスクを抑えられる。ただしこの場合、1社が取りまとめ役として工場との支払い・やり取りを代表する設計が必要です。
それでも避けられない現実
戦い方を尽くしても、以下は避けられません。
- 原材料高騰による値上げは、10年関係があっても来る
- 工賃上昇も、関係性の良い工場であっても発生する
- 一部の案件は、そもそもロットが合わなくて成立しない
- 生産までこぎつけても、1〜2回の注文で終わってしまい長期取引にならないケースが多い
このあたりは、台湾ビジネスの時間軸の話とも通じます。工場との関係は年単位で育てるもので、単発の値下げ交渉で得られるものは限られています。
まとめ
小企業がOEM工場と組む時に詰まる原因は、個別の交渉術ではなく構造的な三重の罠にあります。
- ロット:1,000個標準、300個は事実上不可能
- 単価:為替理由の値下げは最悪手
- 品質基準:A/B/C品の線引きを事前に明文化しないと後出しトラブル
大手は大量発注・交渉力・B品販路で構造的にクリアできますが、小企業は個別に戦う必要があります。戦い方は5つ:①関係性を先に育てる ②品質基準を先に文書化 ③B品を売る販路を持つ ④単価交渉は合理的理由に限定 ⑤中間業者(商社)を経由する。
小さく始める発想がここでも効きます。一発目で大きく賭けず、複数回の取引で関係を育て、その上で条件を詰めていく。工場との関係は「一発逆転」の交渉ではなく、「長期取引の中で少しずつ良くしていく」ものと捉える方が、結果的にうまくいくケースが多いと感じています。

