先日、日本企業の方と一緒に、台湾の企業を訪問する機会がありました。その時に印象的だった言葉が、日本と台湾の営業スタイルの違いを鋭く突いていました。
「日本において営業をするというのは、商品を売り込んでいるようで、実は”自分を売り込む作業”なんです」
この一言を軸に、両国の営業スタイルを両側から見てきた立場から整理してみると、カタログの役割、商談成立のプロセス、窓口の一貫性——3つの領域で日本と台湾は真逆に近い構造を持っていることに気づかされます。
日本のカタログは、あえて情報を詰めない
その方の話で最も印象的だったのが、カタログの作り方の話です。
日本の営業では、カタログにあえて情報を詰め込みません。書くのはコンセプトと商品の概要程度。細かい説明、ギミック、どこが売りなのか、どう説明すれば消費者に響くか——これらの部分は営業担当者本人が対面で直接説明する設計になっている、と。
つまりカタログは”完結する資料”ではなく、営業担当者と一緒に初めて商品紹介が完成する半製品として作られている。カタログとお客さんの間に、必ず営業担当が介在する構造です。
これは「商品を売る」というより「その商品を紹介する自分自身を売り込む」ためのフォーマットとも言えます。カタログが情報を全部持っていたら、営業担当は不要になってしまう。だから意図的に”余白”を残しておく。
台湾のカタログは、それだけで完結する
一方、台湾の営業スタイルはこの真逆です。
- カタログに情報を詰め込み、それを見れば大体のことが分かる状態にしておく
- 属人性が低く、誰が資料を送ってもその資料だけで完結する構造
- メールで資料を送るだけで、相手が判断材料を揃えられる
台湾の営業担当は、資料の”補足説明役”というより、カタログを配布して商談を進める運用担当の側面が強い。カタログ自体が主役で、営業担当はそれをどう届けるかの補助、というイメージです。
「営業=自分を売り込む」の日本と、「営業=商品(の情報)を届ける」の台湾——同じ「営業」という言葉で語られていても、中身が全く違います。
商談成立のプロセスも真逆
この違いは、商談成立のプロセスにも現れます。
日本の商談成立
- ビジネスとして成功する見込みがあっても、「誰から紹介を受けるか」が極めて重要
- 展示会で直接顔を合わせて担当者として認識してもらい、その後も継続して連絡を取り合って「顔をつなぐ」
- 担当者が急に変わると、関係性を一から構築し直す必要があり、ゼロに戻ってしまう感覚がある
台湾の商談成立
- 「人」で判断する傾向はあるが、それ以上に「この商品は売れる」という算段が立ち、利害が一致すれば、担当者が誰であるかに関係なく成立する
- オンライン化が進んでおり、メールのやり取りだけで完結することも珍しくない
- 商品と条件が合えば動く、というドライな側面がある
日本の商談は「誰と誰の関係で動くか」が重要。台湾の商談は「何と何が組み合わさるか」が重要。前者は関係性ドリブン、後者は取引ドリブンとも言えます。
窓口の一貫性も違う
3つ目の違いが、窓口の一貫性です。
日本の窓口
- 基本的には同じ担当者が窓口として一貫して対応する
- 担当者変更は関係リセットに近い衝撃を与える
- 顔・名前・関係性で仕事が動いている
台湾の窓口
- 展示会で名刺交換した担当者と、実際にやり取りする担当者が別人であるパターンがよくある
- 展示会のスタッフはあくまでフロントの営業担当
- 見積もりなどの細かい調整は、決裁者や別の担当者に窓口が変わる
- 属人的な”関係”より、機能的な”役割分担”で動いている
台湾で「名刺交換した人からいつまで経っても返信が来ない」と感じる場合、その人が窓口を後ろに引き継いだ後だという可能性も高い。名刺の人は”入口係”であって、”継続担当”ではない、と理解しておくと動きやすくなります。
台湾の”見切りスタート”に注意——情報を詰めても全部は読まれない
台湾企業のカタログが情報完結型だと書きましたが、実務ではもう一段の注意が要ります。
台湾企業には「見切りスタート」の傾向があります。情報を詰めた資料を渡しても、必ずしも全部読まれるわけではない。ざっくり概要が分かっただけで話を進めてしまう——これが台湾商談の速度感です。前述の「取引ドリブン」の側面と通じますが、実務では細かいところを見落として後で齟齬が出るリスクを生みます。
そのため、資料を「渡した」だけで安心してはいけません。対処として:
- 対面の機会があれば、強調すべき部分は口頭でしっかり押さえる
- 「担当者が誰か」より、細かいところをこちら側から詰め直していく根気を持つ
- 資料はあくまで補助として、追加メールや電話で要点を繰り返し確認する
日本流に「資料に書いてあるから読んでください」だけで通そうとすると、台湾では抜け落ちが起きる。能動的に詰めていく姿勢が、台湾商談では日本以上に必要になります。
共通点:「紹介」の重み
ただし、日台で共通する部分もあります。それが「紹介」の重みです。
- 紹介する以上、変な人に自分の人脈を紹介するわけにはいかない
- 紹介元となる企業や人物も慎重に選ばなければならない
- 信頼を失うことを防ぐため、お互いにある程度の敷居を設けている
この点は日本も台湾も共通です。台湾のドライさは「関係性を軽視する」ことではなく、「商談は関係性から独立している」ということ。紹介の場面では、日本と同じくらい重みがあります。
台湾特有の”温かさ”——「日本企業」というラベル
もう一つ、台湾を訪問して感じるのが、台湾の”親日”の中身にも通じる話ですが、「日本の企業」というラベルだけで最初からある程度の信頼を置いて温かく接してくれる、という現象です。
- 全く関係性がなくても、初対面で歓迎される
- 「日本の企業なら」という理由だけで、知っている企業をすぐ紹介してくれる
- 紹介のフットワークが軽く、その場で電話一本かけてくれるケースも
これは日本ではまず起きない現象です。日本では紹介の重みが強く、関係性を築いてからでないと紹介にはならない。一方、台湾は「日本企業」というラベルが紹介の敷居を下げる働きをする。
ただし前述のとおり、紹介の重みそのものは日台共通なので、この温かさに甘えて雑な動きをすると、紹介元の信頼を失う一発になります。ラベルはあくまで入口で、その後は自分の中身で信頼を積み上げる必要があります。
じゃあ、両側で動く時にどうするか
日本と台湾を行き来する営業活動をする時、この構造の違いを知っておくと、次のような設計ができます。
- 台湾向けカタログは”情報詰め込み型”で作る(ただし詰めれば安心ではない):日本の”余白のあるカタログ”をそのまま持ち込むと、台湾側は「情報が足りない」と感じる。日本版とは別に、詳細スペック・価格帯・使い方まで一枚で分かる資料を用意する。ただし前述のとおり、詰めた情報が全部読まれるとは限らないので、口頭での重点説明と組み合わせる
- 日本向けは”営業担当と一緒に届く”設計を維持:日本のクライアントに送る資料は、あえて概要にとどめ、対面商談で補完する。全部を紙に書き切らない
- 台湾では窓口交代を織り込む:初回の名刺の人から返事が途絶えても慌てない。「次の担当者に引き継がれている」と考えて、確認の連絡を入れる
- 日本では担当者変更を慎重に:日本側の窓口を変える時は、事前に告知し、関係の引き継ぎを丁寧にやる。ゼロリセットを避ける工夫が要る
そして共通する原則は、紹介経由の信頼構築——どちらの国でも、紹介の重みは変わりません。紹介してくれた人の顔を潰さない、という基本は共通です。
まとめ
日本と台湾の営業スタイルは、同じ「営業」という言葉で語られていても、中身が真逆に近い構造を持っています。
- 日本の営業 = 自分を売り込む作業(カタログは半製品、担当者と一緒に完成)
- 台湾の営業 = 商品を売り込む作業(カタログで完結、担当者は運用役)
- 商談成立:日本は関係性ドリブン/台湾は取引ドリブン
- 窓口:日本は一貫/台湾は交代前提
- 台湾は”見切りスタート”傾向あり、口頭で押さえる根気が必要
- 共通点:紹介の重みは日台共通
- 台湾特有:「日本企業」ラベルによる入口の広さ
「日本でうまくいっていた営業スタイルが、台湾では反応が薄い」と感じたら、商談の順番や進め方だけでなく、カタログの作り方から見直してみるのをお勧めします。営業の設計そのものが違う、という前提から入ると、動きやすくなります。

