なぜ台湾ビジネスは速いのか——「まず動く」文化を歴史と構造から読み解く

台湾ビジネスのヒント

台湾でビジネスを始めた日本人が最初に驚くのは、多くの場合「スピード感の違い」です。

商談の場でも、開発の現場でも、価格交渉でも——「まず動く、走りながら考える」というスタンスが、あらゆる場面に浸透しています。日本流の「まず整える、確認してから動く」という感覚から見ると、時にはっきりと戸惑うレベルの差があります。

今回は、この「まず動く」文化を、実務で見てきた場面と、その裏側にある構造から掘り下げてみます。

「まず動く」が見える場面

個人経営の店舗の入れ替わり

台湾の街を歩いていると、個人経営のお店の入れ替わりが本当に激しいことに気づきます。オープンして3ヶ月で潰れる店もあれば、長くても半年から1年で店じまい——そんな入れ替わりが繰り返されています。しかも、閉店から2〜3ヶ月後には、同じ場所に新しいお店ができている。

面白いのは、素人目にも「この立地とジャンルの組み合わせは続かないだろう」と分かってしまうケースが少なくないことです。それでも出店される。予想と逆に、思わぬ立地で長く続くパターンもあるにはありますが、根本には「勝ち目が薄そうでも、まずやってみる」という感覚があるのだと思います。

製造業の対応

製造業の現場でも同じです。何かを依頼すれば、基本的には受けてくれます。ただ、それが希望どおりのアウトプットになるかは、最初の時点では誰にも分かりません。

まず「いけそうか」を簡単に判断し、いけそうなら進める。途中で問題が出たら、その都度解決していく。解決できなければ、そこで終わり——そんなスタンスです。だから、途中でトラブルが起きることも多いですし、修理や対応も根本原因を潰すというより、応急処置的に済ませることが少なくありません。

根本解決を望む顧客もいますが、コストがかかる話であれば、応急処置を繰り返すという判断も普通です。

契約と信用の順序が逆

日本と台湾で決定的に違うのが、契約と信用の積み上げ方の順序です。

日本では、まず信用を積み重ねてから契約する流れが一般的です。一方、台湾では先に契約をして、取引を進めながら、その中で徐々に信用を積んでいくという流れが多くあります。だから、初対面であっても、かなり親切にあれこれサポートしてくれる場合もある。「まず契約、動きながら見極める」という感覚です。

なぜ、これほど速いのか——歴史と構造

台湾のスピード感の裏側には、大きく2つの要因があると感じています。

統治者と人の入れ替わりが激しかった歴史

台湾は歴史的に、統治者が短い周期で入れ替わってきた土地です。スペイン、オランダ、明、清、日本、国民党——次々に統治者が変わる中で、暮らしのルールも、公用語も、経済構造も何度も塗り替えられてきました。

人の構成も、原住民だけだったところに、中国南部から人が渡ってきたり、戦後に国民党とともに大陸から渡ってきた人がいたりと、繰り返し塗り重ねられてきました。

このような変化のスピードの中で、ゆっくり考えて計画的に物事を進めている時間はなかった、というのが台湾の実情に近いと思います。どんどん試して、ダメなら変える——このスピード感が求められ、社会全体に染み込んでいったのだと考えています。

家族経営と、決裁者が現場にいる構造

もう一つは、意思決定の構造です。家族経営の会社に訪問すると、社長など決裁者そのものが商談の場に出てくることがよくあります。突飛な提案をしても、その場で「イエスかノーか」の答えが返ってきますし、必要なら妥協案や折衷案もその場で出てきます。

日本のように「一度持ち帰って社内で検討します」という場面は、比較的少ない印象です。決裁者本人がその場にいて、その人の裁量内で決められることは即決される——この構造自体が、圧倒的なスピードを生んでいます。

「まず動く」の光と影

こう書くと「日本もこうすればいいのでは」と思われるかもしれませんが、実際にはトレードオフがあります。

光——話が進む、柔軟に対応してくれる

一番大きな光は、とにかく話が進むということです。大きな問題にぶつからない限り、取引・契約・プロジェクトはどんどん先に進んでいきます。うまくいけばそのまま成功事例になったり、利益に繋がったり。日本のように「顔を合わせて終わり」の無駄な時間は、比較的少ないと感じます。

決裁者と直接話せることが多いので、内容によっては柔軟性の高さも武器になります。こちらの要望を伝えれば、条件変更に応じてくれることもある。動きの速さと合わせて、この柔軟さは日本にはない魅力です。

影——計画性の甘さと、座礁したときの深さ

一方で、影の部分もはっきりあります。

大きな問題にぶつかったときに、改善策を見出せずに全てが終わってしまう——この可能性は常にあります。計画性がない分、どこで座礁するかが読みにくい。しっかり予定を組む日本人には慣れない感覚です。

柔軟性の高さは、担当者ごとに対応が違ったり、意見の食い違いや情報の一貫性のなさという形でも現れます。誰が担当者・責任者なのかが見えにくいことも珍しくありません。時間にルーズで、予約時間通りにいかないなど、許容範囲の広さの代わりに失っているものもあります。

面白いのは、台湾の人自身も、計画性の甘さを受け入れている一方で、実は困る場面もあるということです。最初から綿密に計画を組んでいれば予定通り終わることも、計画の甘さから一つの問題で全体が大きく遅れる、というケースが起こる。

言い換えれば、「まず動く」文化は博打のような側面もあります。問題が発生しなければ、日本のやり方よりも早く終わる。しかし問題が起きれば、日本より遅くなる。事前準備の長さで安全を買う日本と、事前準備を短くしてスピードを取る台湾——このトレードオフの構造が、両者の差になっています。

締め——理解したうえで選ぶ

「なぜ台湾ビジネスは速いのか」——この問いは、実は「なぜ日本ビジネスは慎重なのか」という問いと表裏一体です。

台湾には、変化のスピードの中で「まず動く」を選ばざるを得なかった歴史がある。日本には、安定の中で「まず整える」を磨いてきた歴史がある。どちらが優れているという話ではなく、それぞれが自分たちの環境で最適化された結果です。

台湾ビジネスに関わるとき、この文化の裏側を知っておくと、目の前で起きていることが少し違って見えます。焦って合わせるのでも、頑固に日本流を貫くのでもなく——理解したうえで、どこを合わせ、どこを残すか、を選ぶ。その視点があるだけで、台湾でのビジネスは変わってくるのではないかと思います。

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