「今週中に直してください」から始まったすれ違い

ある日、通訳として同行していた日本企業と台湾企業の打ち合わせで、こんなやり取りがありました。
「先日施工してもらった箇所、不具合が出たんですけど……今週中に直せますか?」
日本企業の担当者は、至って冷静に対応します。
「まずは施工を担当した下請け業者に確認してみますね。資材元にも問い合わせて、適切な対処法を調べます」
その日はそれで終わり、その経過の報告もしていたのですが、数日後に急に電話がかかってきて、
「不具合の件どうなっていますか?早急に直してください。ちゃんと対応しないなら訴えますよ」
思わず場が凍りました。
日本と台湾、アフターケアの「常識」はこう違う

日本企業にとって「まず原因を究明してから、最適な改善策を選ぶ」のは当たり前。
でも台湾では「今できることをまずやる」が当たり前です。
たとえ一時しのぎでも、動いている姿勢を見せることが大事。
調査→報告→方針決定→実行……という流れでは、対応が「遅すぎる」と見なされます。
この違い、日本側からすると「拙速すぎる」と思えることもあるでしょう。
でも台湾では「遅い=やってない」と捉えられることもあるんです。
「報連相」は台湾には存在しない⁉

こうしたギャップは、製造やOEMの現場でもよく見られます。
たとえば製品の製造依頼をしたとき。
台湾企業から「できますよ!」と言われてサンプルをお願いすると――
「すみません、やっぱり無理でした」
という展開、実は結構あります。
「できるかどうか」は、やってみないと分からない。
だから、まずやってみる。そしてダメなら次を考える。
このスピード感と実行力は、良くも悪くも“台湾らしさ”とも言えるのかもしれません。
台湾人の「即決・即行動」はどこから来たのか?

こうした行動様式の背景には、台湾の歴史があると私は感じています。
台湾は、スペイン・オランダ・明朝・清朝・日本・中華民国と、支配者が何度も変わってきた土地。
そのたびに言語も制度も常識も変わる――そんな時代を生き抜くには、「早く動く」ことが命綱だったはずです。
- 判断を後回しにしたら、損をするかもしれない
- 準備してるうちに、状況が変わるかもしれない
こうした背景が、今の「とにかくまず動く」という文化につながっているのかもしれません。
日本式の“丁寧”が誤解されるとき

日本企業にとっては、原因究明も、ベストな対応を選ぶことも「信頼」の一部。
でも台湾では「とにかく今なんとかしてくれる人」が信頼されます。
これは優先順位が違うだけで、どちらが正しい、という話ではありません。
でも、相手の価値観や背景を知ることで、ビジネスのやり取りはぐっとスムーズになります。
まとめ:スピードと丁寧さ、両方のバランスが大切
台湾では「スピード」が重視され、日本では「正確さ・丁寧さ」が重視される。
この違いを知らずにいると、「誠意がない」「雑だ」とお互いに誤解しがちです。
大切なのは、どちらかを否定するのではなく、「どうバランスを取るか」。
台湾でビジネスをするなら、たとえ仮対応でも「動いてる姿勢」を見せること。
その上で、日本らしい丁寧な対応も加えていく――。
この“合わせ技”が、信頼を築くカギになるはずです。

