台湾でビジネスを始めたい——。
その第一歩が法人の設立ですが、近年そのハードルが急激に上がっていることをご存じでしょうか?
2025年8月現在、私は10年以上にわたり台湾での法人設立サポートに関わってきましたが、「今が一番難しい」と感じています。今回はその現状と理由、そして注意点について、実例を交えながらお伝えします。
かつては「ホテルの住所でもOK」だった時代

私が台湾で初めて法人設立に関わったのは2013年。当時は、驚くほど簡単に銀行口座を開設することができました。
極端な話、観光で来た人がホテルの住所を使って個人口座を開くことも可能だったのです(※もちろん書類の受け取りなどでトラブルが起こるため非推奨ではありましたが)。
それが今では信じられないほど厳しい条件に変わっています。
【最大の壁】法人設立より難しい「銀行口座の開設」

現在、法人設立自体は可能でも、そのあとに控える「法人名義の銀行口座の開設」が非常に難関です。
主な変更点として:
• 多くの銀行で代表者が台湾の居留証(ARC)を取得済であることを求められる
• さらに居留証取得後3ヶ月以上経過していることが条件の銀行も存在
• 一部では、先に個人口座を開設→数ヶ月後に法人口座申請というステップが求められる
これは、法人設立→ビザ申請→居留証取得という通常の流れと順序が矛盾しているため、事実上、設立自体が止まるケースも発生しています。
【背景】マネーロンダリング対策強化が要因

台湾での銀行口座開設が難化している最大の理由は、マネーロンダリング対策(AML)強化の影響です。
この流れは台湾人に対しても及んでおり、外国人にはさらに高いハードルが課されています。
登記住所の近くに銀行が必要という独自ルール
台湾では、登記住所の近くの銀行でないと法人口座を開けないというルールが以前から存在します。
そのため、法人設立時にはなるべく近隣に複数の銀行がある住所を選ぶことが重要です。
また、銀行の対応は本部ごとだけでなく支店ごとにも異なり、同じ銀行でも審査基準に差があります。
「ゆるい銀行・支店」を探すことが鍵
実際の現場では、まず比較的審査がゆるい銀行を狙い、さらにその中で複数の支店を回って交渉するのが現実的な方法です。
特に、居留証なしでも口座開設を受け付けてくれる支店を探すことが法人設立成功の鍵となります。
あるお客様の事例では、登記住所の近隣にある8つの銀行を訪問し、ようやく口座開設可能な支店を見つけ出すことができました。
新たな条件:「居留住所」も必要に?
ただし、その支店でも「代表者が台湾国内に居留住所を持っていること」を条件とされました。
以前は不要だったこの条件により、代表者の方には法人設立前にアパートを借りていただく必要がありました。
つまり、実質的には「ビジネスを始める前に台湾に居住していること」が求められる構図になっており、非常に矛盾したプロセスが生まれています。
※補足:本内容は個人が出資して現地法人を設立する場合のもので、日本本社が出資する現地子会社設立のケースでは一部条件が異なる可能性があります。
【注意点】定款(営業項目)もチェック対象に
銀行は会社の「定款(営業項目)」の内容を審査しています。
もし高リスクと判断される業種(例:貴金属取引、送金代行など)が記載されていると、条件を満たしていても問答無用で拒否されることもあります。
この点については別記事で詳しく解説します。
👉️ 「台湾で貴金属ビジネスはできる?現地法人の口座開設で詰んだ話【事例あり】」
【想定外】投資審議会の審査遅延も発生

外国人が台湾で法人を設立する場合、「投資審議会(投審會)」への申請が必要ですが、2025年は異例の遅延が発生しました。
本来なら1週間程度で承認が出る手続きが、今回は1ヶ月以上待つことに。7月初旬に申請したケースでは、8月初旬まで待たされました。
申請時の回答は、「今は6月分を処理していて、かなり混雑している」とのこと。
原因の可能性:鬼月(旧暦7月)
台湾では旧暦7月=鬼月(2025年は8月22日〜)とされ、新しいことを始めるのを避ける風習があります。その影響で、多くの台湾企業が鬼月前に新規事業・海外投資の申請を前倒しし、投資審議会の審査がパンクした可能性があります。
よくよく考えてみるとこの時期に申請を出したことがないので、もしかすると毎年混む時期があるのかもしれません。
法人設立には「時間的余裕」と「実地の交渉力」が必須

これまで、外国人が代表者1人の有限会社を設立する場合、1ヶ月〜1.5ヶ月で完了していた手続きが、状況によっては途中で止まってしまう、あるいは通常より時間がかかってしまうケースもあり得る状況です。
特に個人が出資して台湾法人を設立しようとする場合:
• 設立前に台湾ゴールドカード(就業金卡)など居留証が取得できないかを確認すること
• 登記住所の近くにゆるい銀行の支店があるか確認すること
• 定款の内容がリスク判定で不利にならないよう設計すること
• 実際に複数の支店を自ら足で回って交渉する覚悟があること
これらの要素が法人設立の成否を分けるカギになっています。
最後に:だからこそ「現地サポート」が重要に
法人登記そのものは行政手続きで解決できますが、その後の銀行口座開設・実務運営は”現場対応”が全てです。
経験のあるパートナーや現地サポートを活用しないと、時間もコストも想定以上に膨らむリスクがあります。
台湾法人設立を検討されている方は、ぜひ最新情報と現地状況に基づいた設計をしていただきたいと思います。

