台湾で「貴金属を扱うビジネスを始めたい」という相談を受けて、いつもどおり法人設立を進めていましたが、──銀行口座の開設で思わぬ壁にぶつかりました。
結論から言うと、法人登記を断念しました。
「えっ、そんなことあるの?」と正直思いましたが、これは決してレアケースではなく、台湾のマネーロンダリング対策の強化が背景にありました。
この記事では、実際に体験したことをベースに、
- なぜ口座開設できなかったのか?
- 金融機関が警戒する“リスク業種”とは?
- 逆に、うまくいった企業はどうしてるのか?
といった視点で、「台湾で貴金属ビジネスを始めたい方」が知っておくべきリアルをお届けします。
台湾で貴金属を扱うと銀行が拒否?リアルな体験談

「法人登記の申請は進んでいるけど、口座が開けない」
これ、かなり困ります。法人登記が完了できないからです。
今回のお客様は「台湾で貴金属を扱う法人を立ち上げたい」という目的で、法人設立を開始。途中まではスムーズに完了していましたが、登記内容に“貴金属関連”が入っていたことで、銀行が拒否。
支店の担当者いわく、
「政府からのガイドラインで、ハイリスク業種は避けるようにしている」
とのこと。
銀行の“支店裁量”が大きいという罠

台湾では銀行本部よりも支店の判断がかなり強く反映されるため、断られるかどうかは“人と場所次第”な面があります。
今回のケースでは、担当者をよく知っている銀行で、なおかつ開設の実績が豊富なところに話をもっていきました。
しかし、
- 個人の出資であること
- 日本で会社経営をしていたが関係ない事業を行っていたこと
- 最初の面談時に悪い印象を与えてしまったこと
を理由に断られてしまいました。
悪い印象というのは、質問に曖昧に答えた結果、それが後に都合の悪い部分を隠して嘘を言っていたと捉えられ、「非合法なことをしようとしているのでは」と怪しまれてしまいました。
大手ならOK?2nd STREETの事例に学ぶ

同じ「貴金属取り扱い」が定款に入っていても、上場企業などの信用力がある会社では違う結果になります。
たとえば、日本の大手リユースチェーン「2nd STREET(ゲオ)」は台湾に法人(子会社)を設立し、貴金属も含めた商品の買取・販売を行っています。
ポイントは以下:
- 定款に“幅広い商材”が含まれている(=貴金属に偏っていない)
- 上場企業としての透明性と信用がある
- 日本側の資金流入ルートも明確
中小企業や個人の進出とは、見られ方そのものが違うんですね。
銀行にとっては「資金の出どころが明確」「グローバル企業としての監査体制が整っている」などの点が重要で、大手企業はそれを証明しやすいのです。
定款は自由に書かない方がいい?オンラインバンク制限の事例

うちの会社でも「せっかくだから」と思って、設立時に“決済サービス”などの業種を定款に盛り込んだことがあります。
その結果…
銀行「ハイリスク業種が含まれているため、オンラインサービスには制限をかけます」
──はい、後悔しました。
今使わない業種は書かないほうが無難。特に「資金移動」「貴金属」「暗号資産」「保険・金融」などは要注意です。
※今後、必要になったら定款の変更も可能なので、最初は必要最低限にするのが安心です。
金の購入にも壁あり?個人・法人で違う“購入ルール”

銀行口座だけではなく、金そのものを買うときにもチェックが入るようになっています。
実際に私が台湾で金を買った際に銀行に問い合わせた結果、以下のような条件がわかりました:
| 属性 | 50万元以下 | 50万元以上 |
|---|---|---|
| 台湾人 | ID提示のみ | 財源証明(給与明細・銀行残高など) |
| 法人 | 登記簿+代表のIDか居留証の提示 | 銀行口座の明細+取引履歴など |
| 外国人(居留証あり) | 居留証の提示 | 台湾で働いている場合は給与明細や台湾の銀行残高などの財源証明 ※財源が海外になる場合は以下参照 |
| 外国人(居留証なし) ※支店によっては購入不可 | パスポートの提示 | 海外の口座残高や給与明細などの資金証明を求められるが基準が不明瞭 (おそらく取引経験が少ないため) |
つまり、買う人と金額によって、審査の厳しさが全然違うんですね。
政府が求めているマネロン対策(業者向け)

台湾政府は、貴金属業者に以下のような確認を求めています:
- 本人確認(なりすまし対策)
- 財源の確認(年収や資金ルート)
- 連続取引のモニタリング
- 国際犯罪者との関連性の確認
取引額が50万元を超えると、業者は管轄部署に対して報告義務が発生します。ちなみに怪しい人物も同様に報告が必要。
つまり「ちょっと買うだけだから大丈夫でしょ」は通じない世界。必然的に購入者に対するチェックも厳しくなります。
まとめ:「台湾で金を扱う」は事前相談が命です
最後は脱線してしまいましたが、この記事で伝えたかったのは、「台湾で貴金属ビジネスは敷居が高い」ということ。
- 口座開設がそもそもできないケースがある
- 定款の内容が命取りになる
- 金購入にも審査が必要
- 個人・法人・外国人で対応が変わる
台湾での法人設立も条件が厳しくなっているので、“銀行の視点”から逆算して考えることが大事。
私たちもいろいろな案件をサポートしてきましたが、「事前に知っていれば回避できたのに…」という相談はあとを絶ちません。
もし、同じようなことでお悩みの方がいれば、気軽にご相談ください。事例ベースで、何をどうすればよいか一緒に考えます。

