台湾進出、法人だけじゃない——4つの形態の使い分け

台湾ビジネスのヒント

台湾進出を検討するとき、多くの人が「法人設立」をイメージします。ただ、実は選択肢は法人だけではありません。支店代表処個人事業主という選択肢もあります。それぞれ設立要件・できること・コストが違うため、自社の状況に合った形態を選ぶのが実務的です。

10年見てきた実感として、「法人設立ありき」で急いだ結果、初期・維持コストが重くなるケースをよく見ます。今回は、4つの形態の実態と、どういう状況にどれが向くかを整理します。

4形態の比較

形態 営業活動 法人格 ARC取得 実務でよく見るか
現地法人(有限公司/股份有限公司) 独立法人 可能 ○ 主流
支店(分公司) ○(本社の営業範囲内) 本社の一部 派遣者のみ △ 少数派
代表処(代表人辦事處) ✕(本社との連絡・調達等の非営利のみ) 法人格なし 可能 △ あまり知られていない
個人事業主(独資商行) 法人格なし ARC必須 △ ARC持ちなら選択肢

①現地法人——最も一般的、ただしハードル上昇中

日本本社とは別の独立した法人。台湾で本格的にビジネスを展開するなら、現時点で最も一般的な形態です。営業活動、契約、雇用、銀行口座開設、すべて可能です。

資本金:台湾の公司法では、原則として最低資本額の規定はなく、自由に設定できます🚩。ただし、実務上の目安として:

  • 借入や政府補助を検討するなら50万〜100万元が現実的なライン
  • 借入・補助を必要としないなら10万元前後でも設立登記費や初期経費を賄える
  • 駐在員ビザ発給を伴う場合は、規定として最低資本額が定められているため、必ずその額以上に設定する必要がある🚩
  • 一部の特殊業種のみ法定最低資本額がある

設立費用:代行事務所に依頼する場合の費用は、私が見てきた例では20〜30万円が下限、規模や追加オプションで80万円程度まで幅があります🚩(参考程度にお考えください)。

注意点台湾法人設立、いまなぜこんなに難しいのか?でも書きましたが、年々審査が厳しくなり、銀行口座開設も高難易度になっています。以前は「法人設立 → 代表者ビザ発給 → ARC取得」というルートが機能していましたが、今は銀行口座の兼ね合いで、法人設立前にARCがほぼ必須という感覚に変わってきました。

②支店(分公司)——独立法人格がないゆえの複数のデメリット

「台湾でも日本本社と同じ事業をやる」というケースで選ばれる形態です。ただ、実務ではあまり見ません。理由は、支店は独立した法人格を持たないため、いくつかのデメリットが重なるからです。

具体的には:

  • 本社との合算決算:台湾支店の業績がすぐ上がらなければ、日本本社の決算に影響する
  • 本社が無限責任:支店の債務や民事紛争について、本社が無限清算責任を負う
  • 外部株主を迎え入れられない:本社が全額出資となるため株式分割ができず、パートナーや従業員持株制度、外部資金調達に不向き
  • 資格・補助が制限される:現地企業向けの租税優遇や政府補助・入札案件は「独立法人限定」が多く、外国支店は対象外になりやすい
  • 経営柔軟性が低い:独立した定款や董事会がなく、重要決定が本社依存、経理人の指定も強制される

こうしたデメリットを避けるため、多くの企業は現地法人を選びます。例外は、事業の切り分けが不要で、これらのデメリットを許容できるケース(本社と完全一体運営したい、規模が小さく外部資金調達も不要、など)です。

③代表処(代表人辦事處)——知る人ぞ知る「情報収集フェーズ」の選択肢

外国企業が台湾に設ける非営利の連絡拠点です。独自の実質的な商業行為(発票発行、直接販売、見積もり、代金受領など)は絶対に行えません

ただし、以下のような非営利活動は合法的に行えます:

  • 市場調査・研究:台湾市場のトレンドや消費者ニーズを本社が把握する
  • 連絡・業務推進:本社と台湾の顧客・供給者との橋渡し
  • 調達と品質管理:現地での供給者開発、製品調達、検品、出荷調整
  • 技術支援・アフターサービス:既存顧客への製品技術相談や修理支援
  • 合法的な社員派遣・雇用:労健保や居留証(ARC)手続きも可能

実感としては、日本人経営者の間ではあまり知られていない形態です。営業活動ができないため「作る意味があまりない」と受け止められがちで、現地法人や支店に比べるとかなり少ないです。

ただ、実は慎重に進出を検討している企業には向いています。設立・維持コストが低く、ARCも比較的取得しやすいからです。「まず現地に人を派遣して情報収集や人脈形成の足がかりにする」「調達拠点として現地に足場を作る」「既存顧客への技術支援を担う」——こうしたフェーズには、法人よりも代表処の方がはるかに手頃です。

営業活動の必要が出てきた段階で、支店や現地法人に切り替える——この段階設計ができれば、法人の初期・維持コストを避けられます。取引可能性ゼロの段階で法人を作るとコスト負担が大きいため、代表処は「知っておく価値のある選択肢」です。

④個人事業主(独資商行)——ARC必須、営業税メリットあり

外国人でも制度上は設立可能ですが、実質的にはARC(居留証)が必須です。

ARC取得ルートとしては、ゴールドカード、結婚、就労、投資などがあります。これらのルートでARCを取得している人は、実は現地法人よりも個人事業主の方がメリットがあることもあります。個人規模のビジネスであれば、営業税を低く抑えられるからです。

以前は「ARCを持たない人が法人を設立して、代表者にビザを発給し、ARC取得」という流れが一般的でした。ARCを持たない人はまず法人設立だったので、あまり注目されていませんでしたが、現在はどちらも実質的にARCが必須になっているため、事業規模次第では個人事業主も現実的な選択肢です。

ただし、無限責任、雇用や大型契約に不向き、といった制約もあります。ある程度規模が大きくなったら法人化を検討する、というのが実務的な流れです。

移行のタイミング——「必要になってから」で問題ない

各形態間の移行は「必要になってから」で問題ないケースが大半です。

  • 代表処 → 現地法人:具体的な取引案件(実質的な営業行為)が発生する時
  • 個人事業主 → 現地法人:売上規模が一定額を超えた、または契約の関係で法人が必要になった時

「先回りで法人を作るコスト」より「後から法人を作るコスト」の方が、多くの場合軽く済みます。取引の可能性がゼロの段階では、代表処や個人事業主の方が身軽です。小さく始める発想は、事業の内容だけでなく、進出形態の選び方にも当てはまります。

銀行口座と資本金の実務注意点

銀行口座開設のハードルは、形態や銀行、支店によって条件が変わりますが、総じて厳しくなっています。個人の方が開設しやすい傾向はあるものの、外国人となるとハードルは上がります。法人は面接や事務所訪問による実態調査が求められることもあります。

資本金についても、「法律上は自由設定だが、実務上の目安がある」という状況です。少額での設立は制度上可能ですが、ビザ取得やその後の運営を考えると一定額以上の金額は必須ですし、ローンを組む際も資本金の額は審査対象として見られると聞きます。ある程度、余裕を見て準備をする方が、後々の増資や株主からの貸付といった運転資金の輸血をする手間を踏まずに済みます

まとめ——形態選びは「目的とフェーズ」で決める

「法人設立ありき」で急ぐと、初期・維持コストが重くなります。選択肢を並べて、目的とフェーズに合わせて選ぶのが実務的です。

  • 本格的な現地取引・雇用が必要 → 現地法人
  • 日本本社の事業を台湾で展開(本社範囲内) → 支店
  • まず市場調査・情報収集・人脈形成・調達拠点 → 代表処
  • ARCがあり、小規模で始めたい → 個人事業主

現地法人は最も一般的ですが、常に正解というわけではありません。「今、本当に法人が必要か」を先に問うだけで、判断の精度が上がる——というのが10年見てきた実感です。

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